会計不正の類型(Types of Accounting Fraud)

会計不正の領域 会計不正(Accounting fraud)には、主に「粉飾決算」と「資産の流用」と2つの領域があります。重要なのは、この2つは明確に大別できるのではなく、重なる領域があるということです。すなわち、粉飾決算には、資産の流用を伴うものと資産の流用を伴わないものの2種類が存在し、この2種類は粉飾決算を行う目的や手口が異なることを理解しておく必要があるでしょう。

一般的に粉飾決算とは、財務報告等の利用者を欺くために財務報告等に意図的な虚偽表示を行うことをいい、これは財務報告等に計上すべき金額を計上しないことや財務報告等に必要な開示を行わないことを含んでいます。粉飾決算は、企業の業績や収益力について財務報告等の利用者を欺くために、経営者や管理者が利益の調整を図ることを目的として行われる場合があります。なお、粉飾決算は、主に以下の方法により行われます。
  • 財務報告の基礎となる会計記録や証憑書類を改竄、偽造又は変造する。
  • 取引、会計事象又は重要な情報の財務報告における虚偽の記載や意図的な除外をする。
  • 金額、分類、表示又は開示に関する会計基準を意図的で不適切に適用する。

 資産の流用は、一般的に売上入金の着服、物的資産の窃盗又は知的財産の窃用、企業の資産を私的に利用すること等が含まれ、主として従業員により行われ、比較的少額であることが多いと言われています。資産の流用を偽装し隠蔽することを比較的容易に実施できる立場にある経営者や管理者が関与した場合には、被害金額は多額になるでしょう。なお、資産の流用は、主に以下のような方法により行われます。
  • 売上金を着服する(例えば、掛金集金を流用する、債権の回収金を個人の銀行口座へ入金させる など)。
  • 物的資産・知的財産を窃盗又は窃用する(例えば、在庫を私用又は販売用に盗む、スクラップを再販売用に盗む、企業の競争相手と共謀して報酬と引換えに技術的情報を漏らす など)。会計不正
  • 企業が提供を受けていない財貨やサービスに対して支払いを行わせる(例えば、架空の売主に対する支払い、水増しされた価格と引換えに売主から企業の購買担当者に対して支払われるキックバック、架空の従業員に対する給与支払い など)。
  • 企業の資産を私的に利用する(例えば、企業の資産を個人又はその関係者の借入金の担保に供する など)

会計不正の例

粉飾決算
不適切な収益認識: 架空売上、循環取引、未出荷売上等
負債・費用の隠蔽: オフバランス取引、費用の資産計上等
費用・収益の期間帰属の操作: 原価付替え、売上の先行計上、工事進行基準の悪用等
不適切な資産評価等: 棚卸資産の水増し、売掛金の評価、固定資産の架空計上等
不適切な開示等: 連結除外、後発事象・関連当事者間取引や保証債務の非開示等
資産の流用
窃盗(現預金): 小口現金の抜取等
不正支出: 偽造請求書を用いた支払い、幽霊従業員への給与の支払い、その他経費に関する不正
売上入金に関する不正: 現金等(売上金、回収金)を会計帳簿に入金する前に抜取る不正
窃盗(在庫): 在庫・備品の窃盗、流用、不正使用等


【参考文献】監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」
(2011年12月22日日本公認会計士協会監査基準委員会)